スキップしてメイン コンテンツに移動

かわうそ堀怪談見習いに出てくる地名から大阪に実在する場所を想像してみた







 先日、柴崎友香さんの「かわうそ堀怪談見習い」が文庫化された。柴崎さんは芥川賞を受賞してるしざっくり言ったら純文学作家だと思っていた。だから柴崎さんが怪談を書くことは意外だったし、柴崎さんの描く怪談がどんなものなのか想像もつかなかったから、本屋に向かう時とてもワクワクした。
 ツタヤさんにいくと、角川文庫新刊のコーナーがあった。全ての本が表紙をこちらに向けて立っていたのですぐ見つかる気がした。
 だけどなかった。焦りに似た気持ちを抱きながら、ぐるぐる本棚を周回して3周目、やっぱりあった。空に見えたスペースの奥にあった。上の段によって奥の方には光は届かずカバーも暗めだったから見えなかった。その時は、この街に柴崎友香のこの本を買う人がいて、多分数時間以内に買われたって事実に喜びを感じていた。
 しかし「かわうそ堀怪談見習い」を読み終えた今、このことを思い返すと、少し怖い。

かわうそ堀は立売堀が元になっている


実在する地名が元になっていると聞いて私は胸が高鳴った。本の中の人たちと繋がれる気がする。まぁそんなこんなで大阪の地図を眺めてみて本作品の地名に似ている地名をピックアップしおくことにする。それにしても「立売」で、イタチと読むとは初見ごろしだ。ちなみに、カバーイラストはしらこさん、カバーデザインは芥陽子さんだ。作品に通じるものがあってとても好きだ。
 

「立売堀」地名の由来を調べてみました。

『日本歴史地名大系 28-[1] 大阪府の地名 1』*1には、「名称の由来には諸説あるが、一般的には「摂津名所図会大成」にあるように、大坂冬の陣・夏の陣に際して伊達家の陣所が置かれていた地で、その要害の堀切であったところを堀足して堀川としたことから伊達(だて)堀と称され、のちに伊達(いだて)堀、伊達(いたち)堀とよばれるようになり、さらに近辺で木材の立売が許可されたため「立売堀」の字を用いるようになったとされる。なお「宝暦町鑑」「天保町鑑」には「伊達堀(いたちぼり)」とあり、町名は「立売堀(たちうりぼり)」と記される。」とあります。
*1 『日本歴史地名大系 28-[1] 大阪府の地名 1』平凡社 1986 書誌ID 0000156512 p.508
引用元:大阪市立図書館 大阪に関するよくある質問
あまり理解できてないが、まとめると

  1. 伊達(だて)氏が堀川にしたことから伊達堀と名がつき、それが「いたちぼり」と呼ばれるようになった
  2. 近辺で木材の立ち売りが許可されていたため「立売(たちうり)堀」の字が用いられた
  3. 1と2が混合されていき「立売堀」を(いたちぼり)と読む現在に

ってな感じだろうか。地名っておもしろい。

実は動物のかわうそじゃない

かわうそ堀の「かわうそ」も実は動物のかわうそではない。作中にはかわうそ堀の地名の由来が記されている。立売堀にも引けを取らない由来感あって面白い。(由来感とは。。)
柴崎さんの「架空の地名の由来を考える能力」を感じたい方はぜひ読んでみてほしい



 作品の中には他にも印象的な名前を持つ場所が登場する。
  • うなぎ公園
  • ほたて江公園
  • かもめ州商店街
  • 猪子島
全部生き物(実際には違う)の名前である。かわいい街感。
以下、モデルになっていそうな地名を、可能性が高いものから挙げていく。

うなぎ公園

類似度:高
見つけた。と思った。 その名も靭公園である。
靭と書いてうつぼと読むらしい。これまた難読である。

作中に出てくるうなぎ公園 ()は参照章

  • かわうそ堀一丁目にある(三 まるい生き物)
  • 戦後の一時期米軍の飛行場だった(一九 影踏み)
  • 東西に細長い(一九 影踏み)
  • マンションやオフィスビルに囲まれている(一九 影踏み)
  • 公園の西側はテニスコートと競技場(一九 影踏み)
  • テニスコートは10面以上(二〇 地図)

大阪に実在する靱(うつぼ)公園

  • 西区靭本町にある
  • 戦後の一時期飛行場だった
  • 東西に細長い
  • 公園の西側はテニスコートと競技場
  • 一般コート14面

靱公園の周囲には、、
ビルがひしめいている。 オアフィス街に穴が空いているみたいだ。
高低差も目に付くが、無機質の中にもくもくと伸びる木も不思議な感じがする。

 靱公園も立売堀同様、初見では読めない地名である。ちなみに靭公園にも少し変わった名前の由来がある。気になる方はググってね。
 かわうそ堀同様、これまたうなぎ公園もあのニョロニョロするうなぎではない。

猪子島(いのこじま)

類似度:まぁまぁ高
こちらは江之子島からきているんじゃないかと思う。

作中に出てくる猪子島 「二〇 地図」参照

  • 現在は周辺と地続き
  • 慶應2年には川と堀に囲まれた島だった

大阪に実在する江の子島

  • 現在は川が埋め立てられ周辺と地続き
  • 昔は川だった
  • 名称の由来に「犬子島」「狗子島」からの転訛説あり

大阪に実在する江の子島は犬子島だった説がある。犬の子も猪の子も、四つ足で毛生えてるし関連性はまぁまぁ高にしておく。


ほたて江公園

ピンとくる場所を見つけられなかった。。 

作中に出てくるほたえ江公園 「一三 桜と宴」参照

  • 古い団地と工場と運河の隙間にある公園
  • 長方形の公園
  • 真ん中に小高くなったスペースあり

海老江、なのか?

 海老江に長方形の公園はあったが、合致するような場所は見つけられなかった。
ただ海老江は淀川に接しているし、川沿いに工場もあるので雰囲気は似てるのかもしれない。
 <かわうそ・いたち> <うなぎ・うつぼ> <猪子・犬子>ときたなら、ほたてと比較的近いジャンル、貝が来ると思った。しかし、貝っぽい名前は地図を見ても見つけられなかった。(読めない地名が多いので見過ごしているかもしれませんが)
 ということで海の生き物同士ってことで海老江が最有力である。


かもめ洲商店街

これも候補がいっぱいあった。。

作中に出てくるかもめ洲商店街

  • 空襲で焼けなかった(一五 茶筒)
  • 戦前の家屋が残っている(一五 茶筒)
  • 南の方角に猪子島がある(二〇 地図)

鷺洲か? 候補あり

商店街で検索をかけて鳥類にフォーカスしてみた。
鶴見橋商店街、鶴橋商店街、鴫野商店街という3つの商店街を発見。
空襲で焼けなかった地から絞ろうと思ったが、不鮮明な資料を前に諦める。
また商店街ではヒットしなかったが、鷺洲(サギス)という場所も発見。
かもめ洲の「洲」を尊重して鷺洲を有力候補にしておく。



まとめ


立売堀以外は私の想像だが、元となった地名はこんな感じなのかもしれない。
靱公園は実際に行ってみたいと思った。何面も並ぶテニスコートを見てみたい。
 あと、主人公が後ろの席の会話を盗み聞きした喫茶店も行ってみたい。

 怪談と聞いて、幽霊に結びつけながら読んでいたが、最後の方になるにつれて、死後の世界やお化けという概念はこの本にはしっくりこないなと感覚が強くなっていった。
 この世に限りなく近い、あの世でもこの世でもない世界の存在を信じながら読んでいたような気がする。多分、これがホテルや病院、団地、とある村とかが舞台だったら、こういう感覚は得られないで終わってると思う。大阪の町で登場人物たちが生活している様子が感じられて、その町や人生の一部として怪談があるこの作品だからこそ得られる感覚のように思う。
 「怪談はちょっとなぁ、純文学が読みたいし」と思っている人でも楽しめるなのでぜひ。
『かわうそ堀階段見習い』
柴崎友香


 




コメント

このブログの人気の投稿

人生を垣間見る|柴崎友香『百年と一日』

  柴崎友香『百年と一日』 筑摩書房 2020年初版  見ず知らずの誰かの物語を集めた一冊。作家生活20周年で柴崎友香さんがこの世に送り出してきた一冊はまさに傑作でした。    「タイトルすごくない?」と話したい   この小説には33編の短い話が収められている。なんといっても各話の 独特なタイトル が印象的なのでちょっとこれを読んでほしい。 アパート一階の住人は暮らし始めて二年経って毎日同じ時間に路地を通る猫に気がつき、いく先を追ってみると、猫が入っていった空き家は、住人が引っ越して来た頃にはまだ空き家ではなかった  これはタイトルなのである。一読しただけではつかみとれないタイトルが目次を開くと広がっている。  他にもこんなタイトルも。 戦争が始まった報せをラジオで知った女のところに、親族の女と子どもが避難してきていっしょに暮らし、戦争が終わって街へ帰っていき、内戦が始まった  水島は交通事故に遭い、しばらく入院していたが後遺症もなく、事故の記憶もうすれかけてきた七年後に出張先の東京で、事故をおこした車を運転していた横田をみかけた   読み応えのあるタイトルに私はなんだかとても感動した。こんなにも不思議なタイトルを、ひとつならまだしも、いくつも考えられる人がいるということがちょっと信じられなかった。努力を帳消しにしてしまいそうであまり言わないようにしているが 「天才だな」 と思った。  そして、タイトルを読んだ時点でこれは多くの人に読んでほしいと思った。「すごいタイトルだね」「長っ」「私が好きなのはね、これ」と、この感動を共有したいと思ったのだと思う。 あなたもきっと想像してしまう  タイトルだけではなくしっかりと中身も面白いのでご安心を。  この小説に収められている物語は、登場人物が名前で描かれないことが多い。 なにか見えたような気がして一年一組一番が植え込みに近づくと、そこには白くて丸いものがあった。(P9)  その後もその者は『一組一番』と書かれ、新たに登場する者は『二組一番』と書かれる。徐々に「一組と二組は、顔を見合わせた」というように”一番”を省略しながらも徹底して名称は変わらない。『青木』と『浅井』だから二人が話すようになったと明かされても、二人は『一組一番』『二組一番』となのである。 また、別の話では『一人』と『もう一人』として描かれる二人が登場する。

生めるからつきまとう|川上未映子「夏物語」

川上未映子「夏物語」文藝春秋 2019年7月 初版  「自分の子供に会ってみたい」三十八歳の夏子は、日に日に増すその思いを無視できなくなっていた。しかし、パートナーはおらず、性行為もできそうにない。もし、誰かの精子さえあれば、生むことはできるが……。  生む・生まないということについて考えざるを得なかった周囲のものたちの痛みに触れながら、夏子は自身の声を拾っていく。夏子の三十八年分の人生を感じられる、550ページを超える長編作。  第73回毎日出版文化賞文学・芸術部門受賞作。2020年本屋大賞ノミネート作品。 想像を超える背景がある   本作は一部と二部に分かれている。一部は、芥川賞受賞作品の『乳と卵』の加筆修正版である。  小説家を目指し東京で暮らしている夏目夏子、三十歳。一部では、豊胸手術をしたい三十九歳の姉・巻子と、思春期を迎え身体の変化に嫌悪感を抱く姪・緑子に、振り回されながら接する夏子が描かれている。賑やかに大阪弁で言葉を交わす姉妹に対して、十二歳になる緑子は口を閉ざしたままだ。読者は、緑子の胸中を文中に挿入された日記を通して知ることになる。 生むまえに体をもどすってことなんやろか、ほんだら生まなんだらよかったやん、お母さんの人生は、わたしを生まなかったらよかったやんか、みんなが生まれてこんかったら、なにも問題はないように思える。誰も生まれてこなかったら、うれしいも、かなしいも、何もかもがもとからないのだもの。(P134) 緑子は「 生まれてきたら最後、(中略)お金をかせぎつづけて、生きていかなあかんのは、しんどいこと 」という思いを抱き、絶対に子どもを生まないとまで書き記している。シングルマザーの巻子が働き詰めになって疲れているのは、子どもであるわたしがいるからだと感じ、早くお金を稼ぎたいと緑子は思う。しかし、緑子にはまだそれはできない。  緑子が反出生主義を唱えるのは、貧困の家庭で育ったことと、母・巻子の苦労を自分のことのように感じてしまう関係性が影響しているように感じられる。  本作で様々な立場から繰り出される発言には、緑子のように相応の背景を感じられる。すべての意見に納得できないとしても、きっと誰も頭ごなしに否定することはできない。   二部では、三十八歳になった夏子が、このまま自分の子ども